最高裁判所第二小法廷 平成2年(オ)1598号 判決
上告人
朴判介
右訴訟代理人弁護士
仲森久司
被上告人
有限会社三原
右代表者代表取締役
藤田鐵男
被上告人
松本昌蔵
右訴訟代理人弁護士
井原紀昭
高田勇
佐度磯松
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人仲森久司の上告理由について
民法三九五条ただし書の短期賃貸借の解除請求訴訟において解除判決が確定したときは、抵当権者と賃借人との関係のみならず、賃貸人(所有者・抵当権設定者)と賃借人との間においても賃貸借関係が終了すると解するのが相当である。けだし、解除判決によって、右三者間の法律関係が画一的に解決されず、各当事者間で異なった効力を生ずるとすれば、法律関係が複雑となるからであり、それゆえに、解除請求訴訟は短期賃貸借を消滅させる形成訴訟であって、右三者間で合一にのみ確定されるべき必要的共同訴訟とされているのである。したがって、解除判決が確定したときは、賃借人の目的不動産の占有権原は賃貸人との関係においても消滅するので、賃貸人は、賃借人に対し、その明渡しを請求することができる。これと同旨の原審の判断は正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。
よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官大西勝也 裁判官中島敏次郎 裁判官木崎良平 裁判官根岸重治)
上告代理人仲森久司の上告理由
原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違背がある。
即ち原判決は民法第三九五条但書の解釈を誤ったものである。
一、上告人は原審で原判決摘示の判決(神戸地方裁判所昭和六三年(ワ)第六六一号事件、以下便宜神戸地裁判決と称す)の効力は訴外びわこ銀行と上告人、並に被上告人間に生じるにとどまり、上告人と被上告人間には生じない旨主張した。
そしてその理由を平成元年一二月六日付準備書面で主張した。
二、しかるところ原判決は上告人の右主張を認容する合理的理由がないとしてこれを排斥した。
三、しかし上告人の原審での主張には前記準備書面で主張した合理的理由がある。
即ち民法第三九五条本文は目的物件の用益権を抵当権に優先さすための規定であるところ、同条但書はこれを否定し、抵当権者の利益保護のために逆に抵当権を優先させるための規定である。
つまり同条但書は抵当権者の利益のためのみに規定されたものである。
そうだとするなれば前記判決の効力も訴外銀行と上告人間、訴外銀行と被上告人間で認めれば必要にして且つ充分なのである。
原判決の認定した事実関係によれば上告人(貸借人)と被上告人(賃貸人)との関係において上告人には何んらの債務不履行はなく、本件物件の明渡しを請求されるいはれは全くない。
同条但書を原判決の如く解すると不当に被上告人(賃貸人)を保護することとなり、被上告人は漁夫の利を得る結果となる。
四、尚、神戸地裁判決の合一的確定の内容についても、びわこ銀行と上告人、並に被上告人間に合一に確定するだけで充分に合一確定の目的が達せられるものであり、これを上告人と被上告人間にも拡張して適用すれば、かえって前記の如き不合理が生じるものといわねばならない。
よって原判決は速かに破棄されるべきである。